top of page

オーストラリアの子どものSNS規制法から考えるデジタル利用環境

─システミックリスク時代の社会・政策・教育の接点─

2025年 社会情報学会大会
会場: 東京大学 法学政治学系総合教育棟(ガラス棟)/大学院情報学環・福武ホール
9月28日(日)09:30~11:30

【概要】

 オーストラリアでは、Social Media (Age Verification and Parental Consent) Bill(オンライン安全改正法案:ソーシャルメディア最低年齢)が2024年11月に可決した。同法ではSNS事業者に対し、16歳未満のサービス利用を制限する「合理的な措置」を講じることを義務づけている。この改正法の可決を受け、我が国でも子どものSNS利用に対する対策が問われている。

この法律は、子どもに対するサイバーいじめ、有害なコンテンツへの露出、SNSの過剰利用の問題など子どものネット利用に関する課題に広く対処することを目指しているものである。しかし、これらの問題は、個々人の問題として発生した固有のリスクが、アルゴリズムにより増幅され、社会全体に膨張し、より広範な社会問題、権利問題、人権問題へと発展するという「システミックリスク」を生じさせる恐れを内在している。

 本ワークショップでは、この本法を起点に、我が国における子どものデジタル環境整備の方向性を、社会・政策・教育の三側面から多角的に検討する。登壇者は法曹実務、社会学、情報学、哲学・倫理、政策科学などの専門家であり、規制の正当性と限界、技術と感情の関係、子どもの権利、そして全国調査を基にした現場の課題を俯瞰的に捉える。世論・技術・社会制度をどう結び直すかを参加者とともに考えていきたい。

本ワークショップは、デジタル社会とウェルビーイング研究部会の企画として実施する。

 

【司会・登壇】

司会・コメンテータ:吉見 憲二(成蹊大学 教授)

報告1: 齋藤長行(仙台大学)

「高校生は闇バイト求人を見抜くことができているのか? ―リテラシー習熟から考える青少年保護のありかた―」

 本発表は、全国3,242名の高校生・高専生を対象に、闇バイト求人広告の識別能力を数量的に分析したものである。平均得点は9.27点と高く、多くの生徒が闇バイトを見抜けている一方、男子の分散が大きく識別力の低い層の存在が示唆された。学年間に有意差はなく、高校1年生の段階で判別能力は形成されていることが明らかとなった。応募行動に至るハイリスク層に対しては、非行傾向や経済状況を考慮した重点的介入やナッジを組み合わせた非行防止策が求められるとともに、ブーストやプレバンキングによる啓発的アプローチも有効になる可能性があると言える。

 

報告2:中俣 保志(香川短期大学)

「デジタル時代の倫理:香川県ネット・ゲーム依存症対策条例(以下「香川県ゲーム条例」と略記)」のその後と子どもの保護と自律」

 「香川県ゲーム条例」をはじめ、愛知県豊明市など、我が国における子どものデジタル環境整備に関して、懸念を示すと思われる条例が成立している。本報告では、「香川県ゲーム条例」制定後の変化をフォローアップするとともに、二つの条例を事例として、先行研究を踏まえながら、規制条例が提案される諸前提となる思想を検討し、条例化の方向性を、主に福祉・医療面と教育面の側面から検討する。

 

報告3:伊藤 賢一(群馬大学)

「SNS規制のロジックと消費者教育」

欧米各国でSNS規制が問題となっているが、そのきっかけのひとつになったMeta社の元プロダクトマネージャーのフランシス・ホーゲン氏による告発である。そこでどのようなことが問題とされていか、それを受けてさまざまなところで争われている論点を取りあげ、望ましい規制について考えたい。わが国はもっぱら消費者教育に頼り、「賢い消費者」を育てることで対処しようとしているが、そのことの意味も考察する。

 

報告4:上沼 紫野(LM虎ノ門南法律事務所/情報セキュリティ大学院大学)

「青少年のネット利用に関する日本の対策と他国の状況」

 実際の青少年からの相談実態をベースにネット上の青少年保護の課題について検討する。それを前提に、日本の制度の現状を、OECD等のリスク分類を前提に議論すると共に、オーストラリアの青少年によるSNS利用規制法をはじめとした、他国のSNS規制の方向性や、EU、英国におけるプラットフォーム事業者に義務を負担させる法制度や米国における学校への携帯電話持込規制の状況などを概観する。

© 2022 by Research Group on the Digital Society and Wellbeing

bottom of page